紅茶

紅茶

 

 朝の光が薄く差し込む我が家のキッチンで、糸鋸刑事がいつものようにお湯を沸かしていた。ケトルから立ち上る湯気が、穏やかな空気の中でゆらゆらと揺れている。出勤時間が近づく外は次第に慌ただしい気配があるのに、ここはなんとものんびりとした空間だった。
 私はソファに腰かけ、カップに紅茶を注ぐ彼を見る。何度も繰り返している、いつもの朝の風景。このまま時が止まればいいのに‥‥などとバカげたことを思うくらいに愛しい時間だ。

「今日はストレートにしてみたッス。」

 お疲れでしょう? と、彼は微笑んでカップを差し出してきた。
 爽やかで軽やかな香りが私の眠気をほんの少し吹き飛ばす。‥‥彼のすごいところはここだ、と常々思う。私でさえ気づいていない私の些細な変化に気づき、最適な紅茶を淹れてくれるのだ。こんなこと、どんな高級ホテルのサービスだってできやしない。

「いただきます。」

 一口、すする。フルーティーでフレッシュな華やかな香りと、さっぱりとした味が眠っていた脳を起こしていく。

「キミが淹れる紅茶は世界イチだな。」

 私がそう伝えると、彼は照れくさそうに笑った。
 冗談が上手くなったッスね、と言われたが、私は本気で思っている。これはただ飲み物ではなく、彼の小さな気遣いがいくつも詰まった唯一無二の一品だ。それを享受できる何気ない朝を、私は感謝してもしきれない。
  もう一度、紅茶を口に運ぶ。この穏やかな朝が、これからも続くことを心の中で願いながら。

 

 

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